DX入門コース
~第3話 ECサイトの問題は、ECだけの問題じゃなかった~
第2話では、神谷がまるやまマート本店を訪問し、ベテランの田中店長に業務の現場を見せてもらった。POSレジで売上データは取れているが発注には活用されていないこと、シフト管理やお客様の声は紙のままであることを確認した。SoR・SoE・SoIの3層をどう循環させるかが、DXの実体に近いと整理した。今日は、社長が最初に相談してきた『ECサイトの問題』を、DXの視点で見直しに行く。
ECサイトを点検する
【シーン】本部事務スペース、神谷のデスク。日中。 【人物】神谷悠馬、一人。 【構図】PC画面にECサイトの商品ページが表示され、赤い付箋で「価格が店頭と違う」「在庫切れなのに在庫あり」「季節外れの説明文」と問題箇所がマークされている。デスク上に店頭価格表のプリントアウトとECのスクリーンショットが並んで比較されている。 【表情】神谷は眉をひそめ、問題の大きさに驚いた表情。 【ロケーション整合】03_honbu_office:ベージュのカーペットタイル、白い壁、温白色LED、グレーのスチール家具、パーティション120cm。神谷のデスクには資料の山と付箋。 【色調】昼の温白色、彩度低め。 【避ける】読める実テキスト、商標、他人物。
前回、本店の現場を見た神谷は、次にECサイトの状態を確認することにした。社長から最初に相談されたのもECの改善だった。実際に商品ページを一つずつ開いて確認していく。
すぐに問題が見つかった。
⚠ ECサイトで見つかった問題
- 価格の不一致 — 店頭で値下げした商品が、ECでは旧価格のまま表示されている
- 在庫情報の誤り — 店頭で売り切れた商品が、ECでは「在庫あり」と表示されている
- 古い説明文 — 夏の季節商品の説明文が、秋になっても「暑い日にぴったり」のまま残っている
- 写真の未更新 — パッケージがリニューアルされた商品が、旧パッケージの写真のまま

情報のズレ
【シーン】本部の打合せエリア。日中。 【人物】神谷悠馬、鈴木勤(30代前半・男性、控えめな表情、地味めのシャツ)。 【構図】鈴木はPC前に座り、申し訳なさそうな表情で説明。神谷は向かいに座り、深刻な表情でメモ。 【小物】デスクにExcelが開かれたノートPC(読める実テキストは描かない)、分厚い紙のファイル(商品情報マスター)、付箋だらけの価格表。 【ロケーション整合】03_honbu_office:ベージュのカーペットタイル、白い壁、温白色LED、グレーのスチール家具。 【色調】昼の温白色、彩度低め。 【避ける】読める実テキスト、商標、他人物。
神谷は、IT基礎で個人アカウントを発行してもらった鈴木勤にもう一度話を聞きに行った。鈴木は本部の事務スタッフで、通常業務の合間にECサイトの更新も兼務している。今回はアカウント周りではなく、ECの商品情報そのものについて聞きたかった。






バラバラの管理
【種類】メタファー図。人物は描かない。 【構図】薄い青の海に3つの島: ・左『本部』— Excel、電話のアイコン。 ・中央『店舗』— POSレジ、手書きメモ。 ・右『ECサイト』— Webページ、手動更新のアイコン。 【橋】3つの島の間に細い・壊れかけの橋(口頭連絡、紙のメモ、メール)。一部は途切れている。 【上部】タイトル「情報のサイロ化 ── つながっていない情報管理」。 【下部キャプション】「同じ会社の中でも、3つの島が独立して動いている」。 【色調】薄い青の海、3島は薄水色・薄ピンク・薄黄で識別、橋はくすんだ茶色。 【避ける】恐怖を煽る描写、商標、人物の顔。
その夜、神谷は西園寺にECサイトの状況を報告した。








情報の流れを描く
【種類】フロー対比図。人物は描かない。 【構図】上下2段。 ・上段『あるべき姿(理想)』:仕入先→本部(一元管理:商品マスタ)→自動で店舗とEC双方へ反映→お客様。青い滑らかな1本道の矢印。 ・下段『現状』:仕入先→紙カタログ→本部Excel(手動入力)→(口頭連絡)→店舗(独自変更あり)/本部Excel→(手動更新)→ECサイト。赤い途切れがちな複数の矢印。 【補助】下部キャプション「途切れたところで情報がズレ、現場と顧客に負担が生まれる」。 【色調】上段は明るいindigo、下段はくすんだ赤系、背景は白。 【避ける】実在企業名、商標、人物。

西園寺は画面共有で、まるやまマートの情報フローを整理した。
まるやまマートの情報フロー(現状)
- 商品情報の発生 — 仕入先のカタログ(紙)から本部が手入力でExcelに登録
- 本部 → 店舗 — 価格変更はメールや口頭で連絡。店舗が独自に変更することもある
- 本部 → EC — 鈴木がExcelを見ながら手動でECを更新。タイムラグあり
- 店舗 → EC — 在庫情報の連携なし。店頭で売り切れてもECに反映されない




BPR:業務プロセス改革
【種類】3ステップ図。人物は控えめ。 【構図】左から右へ3ステップ: ①「As-Is(現状)を描く」— 現状の業務フロー(複雑な分岐、人手の介在、紙の往復、手戻り)を細かい線で描く。 ②「ムダ・ムリ・ズレを洗い出す」— ハイライト:手戻り、二重入力、待ち時間、属人化、紙の停滞ポイント。 ③「To-Be(あるべき姿)を再設計する」— シンプルな1本道のフロー、自動化、一元管理、人は『判断と接客』に集中。 【中央キャッチ】「BPR = 業務プロセス改革(Business Process Re-engineering)」「『改善』ではなく『描き直し』」。 【下部補助】「DXのBPRは『デジタル前提』で描き直すのが特徴。Excel置き換えではなく、流れそのものを変える」。 【色調】白背景、①はグレー、②はオレンジ、③は明るいindigo。 【避ける】実在ロゴ、商標、人物の顔ディテール。









📌 覚えるポイント
- ECサイトの問題は、ECだけの問題ではないことが多い
- 商品情報・在庫・価格が別々に管理されていると、不整合が起きる(情報のサイロ化)
- DXの視点では『個別のシステム』ではなく『情報の流れ全体』を見る
- 正しい情報を一箇所で管理し、各所に反映する(シングルソースオブトゥルース/MDM)が理想
- BPR(業務プロセス改革)の3ステップ:As-Is→ムダ洗い出し→To-Be描き直し
- DXは『改善』ではなく『描き直し』。デジタル前提で工程ごとなくす発想
📖 覚える用語
- 情報のサイロ化
- 部署やシステムごとに情報が分断され、共有・連携されていない状態。サイロ(穀物貯蔵塔)のように、それぞれに情報は入っているが互いにつながっていない。DXの大きな障壁の一つ。
- シングルソースオブトゥルース(SSOT)
- 一つの情報源を『正』とし、そこから各所に反映する考え方。商品情報を一箇所で管理し、店舗にもECにも同じデータが届くようにすることで、情報の不整合を防ぐ。
- 業務プロセス
- 仕事を完了するまでの一連の手順。『入力→処理→出力』の流れで捉える。DXでは、この業務プロセス全体をデジタルの力で見直す。
- As-Is/To-Be
- 業務プロセスの『現状(As-Is)』と『あるべき姿(To-Be)』を表す対概念。両方を描き分けることで、変えるべき場所と変える方向が見える。
- BPR(業務プロセス改革)
- Business Process Re-engineering。業務の流れを『改善』ではなく『描き直す』アプローチ。10%の効率化ではなく、2倍・3倍の効率や新しい顧客体験を目指す。1990年代から使われ、いまはデジタル前提で再加速したものがDXの実体に近い。
- 今日学んだこと
- ECサイトの問題の根本は、商品情報・在庫・価格が本部・店舗・ECでバラバラに管理されていること。ECだけを直しても、情報の元がつながっていなければ同じ問題が繰り返される。
- 鈴木さんの実態
- ECの手動更新だけで週10時間以上を消費しているのに、ズレが残る。これは個人の努力の問題ではなく、構造の問題。
- BPRの3ステップ
- ①As-Is(現状)描き出し、②ムダ・ムリ・ズレ洗い出し、③To-Be(あるべき姿)再設計。DXは『改善』ではなく『描き直し』。
- 次にやること
- いきなり全部を直すのではなく、小さく始める方法を学ぶ(スモールスタート/PoC)。最初は1つの商品カテゴリで情報の流れを整理するところから試したい。
まとめ
📚 出典・参考情報
- 中小企業庁 — 2026年版 中小企業白書
- 経済産業省 — DXレポート2(中間取りまとめ)(2020)
- IPA — DX動向2025
- Michael Hammer & James Champy『リエンジニアリング革命』日本経済新聞社, 1993
